塗布装置の選定を任されてカタログを広げた方なら、一度は同じ壁にぶつかっているはずです。
並べてみたのに、比較にならないのです。
はじめまして。森下拓也と申します。
電子部品メーカーの生産技術部で12年、基板実装ラインの接着・シール工程を担当していました。
いまは中小の製造業さんの工程改善を手伝っています。
今回はプランジャポンプ式とギアポンプ式に絞って、選定の現場で何が起きるかを書いてみます。
カタログを並べた瞬間、単位が揃っていないことに気づく
ナカリキッドコントロールの2液型ディスペンサから、3機種の仕様をそのまま抜き出してみます。
| 機種 | 計量方式 | 吐出量範囲 | 使用可能粘度 |
|---|---|---|---|
| CF-25 | 容積計量(ギアポンプ式) | 0.8〜33.4 ml/秒 | 1〜200,000 mPa・s |
| P-FLOW Tタイプ | 容積計量(プランジャ式) | 0.07〜0.7 ml/shot | 1〜200,000 mPa・s |
| MP-502 | 容積計量(プランジャ式) | 1〜100 ml/shot | 1〜50,000 mPa・s |
※CF-25の数値は理論値で、使用液や条件により変動する旨の注記があります。
お気づきでしょうか。
ギアポンプ式だけ単位が「ml/秒」なのです。
これは表記の揺れではなく、設計思想がそのまま単位に出ています。
プランジャ式は1ショットあたり何ミリリットル押し出すかで考える装置です。
対してギアポンプ式は歯車が回り続けるあいだ出続けるので、時間あたりの流量で書くほかありません。
この2つは、そもそも同じ土俵で足し引きできる数字を持っていないのです。
若いころ比較表を自作しようとして挫折したのは、そこが分かっていなかったからでした。
往復か回転か、規格の世界でも別扱いになっている
面白いのは、この違いが日本産業規格でも分かれている点です。
- プランジャポンプが属する往復ポンプは、JIS B 8311:2022 往復ポンプ―試験方法
- ギアポンプが属する容積式回転ポンプは、JIS B 8312:2022 歯車ポンプ及びねじポンプ―試験方法
どちらも「押しのけた体積の分だけ出す」容積式の仲間でありながら、性能試験のやり方は別の規格に切り分けられています。
これらは工場での受渡試験を対象とした規格なので、微少量を吐出するディスペンサ用ポンプにそのまま当てはまるわけではありません。
それでも、往復運動と回転運動は同じ物差しでは測れないと整理されている事実は、頭に入れておいて損がないと思います。
同じメーカーの中で並んでいると、何が助かるのか
方式の違う機種を別々のメーカーから取り寄せて比べると、試験条件も表記ルールも違うため、方式の差なのかメーカーの差なのかを切り分けられません。
同じメーカーの同じカテゴリに両方が載っていれば、少なくとも書き方の作法は揃っています。
残った差は、方式そのものの差だと考えていいわけです。
そして並べてみると、もうひとつ分かることがあります。
同じ「プランジャポンプ式」でも、P-FLOW Tタイプは0.07〜0.7ml/shot、MP-502は1〜100ml/shotと、100倍以上ひらいているのです。
方式名だけで機種は選べないのです。
この事実は、方式をひとつしか持たないメーカーのカタログを何冊読んでも見えてきません。
私が方式選定で迷ったときは、いったんディスペンサの塗布方式を横並びで確認できる2液型の製品一覧に戻るようにしています。
プランジャ式、ポジロード式、ギアポンプ式が同じ粒度で並んでいるので、自社の工程が点付けなのか連続塗布なのかを考える起点として使いやすいのです。
それでも最後は自社の材料で試すしかない
ただ、カタログの読み比べで決められるのは候補の絞り込みまでです。
NEDOのウェブマガジンには、車体軽量化に使う構造用接着剤の実用化ハードルとして「ロボットによる自動塗布で、狙った場所に確実に塗れる粘度であること」という記述があります(自動車の軽量化のカギを握る 構造用接着剤)。
接着剤が用途ごとに作り込まれていく以上、それを狙い通りに出す装置への要求も上がり続けます。
カタログの粘度レンジは、あくまで一般的な条件での話です。
フィラーの沈降も季節による粘度変化も、あの数字には現れません。
だからこそ、候補を2、3機種に絞ったら実機テストに持ち込むべきです。
図面と見積書だけで決めた案件を、私は何度か後始末しました。
まとめ
プランジャポンプ式とギアポンプ式は、吐出量の単位からして違います。
ml/shotで考える装置とml/秒で考える装置を、無理に同じ表で比べようとしないでください。
大事なのは、自社の工程が点で置く作業なのか、線や面で連続して引く作業なのかを先に決めることです。
方式の名前ではなく、自分の工程から逆算する。
遠回りに見えて、これが一番失敗の少ない選び方だと思っています。